番組審議会

第84回 放送番組審議会議事録

1. 開催日時:平成15年6月24日(火) 午後3時
2. 課題番組:「男になるんだ ‐俳優・金子正次の生涯‐」
          5月28日(水) 26時16分~27時01分(45分)放送
3. 記事の概要:
・地方発の番組としては、なかなか味わい深い骨のある手作り作品に仕上がっている。ディレクターの真剣に取り組んだ姿勢が番組構成の中ににじみ出ている。

・タイトルの「男になるんだ」というフレーズは、金子正次さんが日頃から口にしていた言葉だが、もう少しドロ臭い、気の利いたタイトルは無かったものか。

・これからも、地元放送局として、地元出身ながら世間から忘れ去られようとしている人、また、才能がありながら、あまり取り上げられなかったような人達に焦点をあて、日の目を見せてあげられるような番組を作ってほしい。

・金子正次さんという人物をこの番組で初めて知った人も少なくないと思うが、愛媛にこのような人が居たのかということ、また、大杉漣さんや松田優作さん、桜金造さんなどの著名人と深く縁のある人が愛媛に居たということに驚いた。

・地元のテレビ局として、しっかりした視点から作られている。金子正次さんという人を題材としたという、テーマの選定がまず良かった。

・この番組はかなりの低予算の下で制作されたことが伺われ、大変な苦労があったものと思われる。制作費はスポンサーの関係で決まってくる部分があるので、やむを得ない部分もあると思うが、こういう良質な番組をコンスタントに作っていけば、いずれ努力が認められてスポンサーもついてくるのではないか。

・非常に心に残る番組であった。できれば、今の若者にもこの番組を見せてやりたいものだと思う。将来に大きな夢を抱いた若者にとって、金子正次さんの話から得られるものは多いと思う。

・金子正次さんの出身地である中島町の津和地島では、かつて島の人は、みかんと漁業で細々と生計を立てていた。あの島からは何も見えない、しかし、それだからこそ金子正次さんのような大志を抱く人、強く生きた人が現れたのではないか。今の若者には、ああいう「強さ」がなかなか見られない。そこのところをこの番組はうまく表現していたのではないか。金子正次さんの生家は、今では綺麗になっているが、おそらく金子正次さんの幼少時は、家も古くて、生計も大変だったろう。しかし、それらが逆に「いつか何かになってやるぞ」というような志を強め、彼のような人間を育てたという部分に、感動した。

・金子正次さんについては、名前を「金子竜二」と勘違いするほど、金子正次のイメージと竜二のイメージが重なり合っている。故人を追い駆ける取材というのは、非常に難しいことで、情報収集には随分苦労があったことは伺えるが、あまりにも美化され過ぎているのではないかという感じを受けた。この人がもし生きていて、2作目、3作目を制作していたとしたら、この人の作品が果たして今のように高い評価を受け続けたかどうかというところに少し疑問を感じた。また、金子正次さんの死後、「竜二」が一人歩きしてしまい、ありのままの自然な姿を描くことができなくなっていて、金子正次さんのことを回想する映画監督、カメラマンの方たちの語り方に、見ている側が距離を感じてしまう。出てくる監督さんやカメラマンの方と私では年齢が離れているせいもあると思うが、若い視聴者は気持ちを共有しにくいのではないか。狙いとされる「情熱を失いつつある若者へのメッセージを込めたドキュメンタリー」という「メッセージ」は、明確には伝わってこないような感じをうけた。

・上隅信雄さんのナレーションは乾いた感じで、金子正次さんや「竜二」の雰囲気に相応しくて良かった。

・登場人物の話し言葉について、金子正次さんの主治医だった医師の話し方や、金子正次さんのお母さんの話し方が、声の質や、発声の仕方、あるいは訛りのせいで、はっきり聴き取りかねる場面が少なくなかった。スーパーインポウズを、あまりにもたくさん被せるのは画面が汚くなってしまうので、制作者としてはなるべく避けたいことだと思うが、人物が話す場面で特に話している言葉が分かり難いときには、すこしスーパーを入れたほうが良い。ここには少し改善の余地があると思う。

・大杉漣さんが始めのところで登場しているが、それっきりになっていて少しあっけないので、後半の内容にも絡ませれば面白いのではないか。

・「竜二」、「竜二 フォーエバー」に加えて、16mmのプライベートフィルムでの金子正次さんを縦糸にして、金子正次さんの周囲の人を横糸にして進行していくという造りのようだが、大変見応えがあって、見るにつれてどんどん面白くなってきたように感じた。

・金子正次さんという人物も故人であり、この世に存在しないので、金子正次という人物像の接点になっている人達に金子正次さんを語らせる形で、金子正次さんという人物を作り上げている。この作り方をしていくうえで要になっているのが、大杉漣さんと桜金造さんのコメントで、彼らの語りを聞きながら番組に惹きつけられていった。

・惜しむらくは放送時間で、短い期間ではスポンサーが見つからずやむを得ないことだったのだと思うが、「放送番組審議会推薦」とかいう冠をつけてもいいから、何とかしてもっと良い時間帯に放送して欲しい。

・見ている人が「金子正次=竜二」あるいは「金子正次の生涯を描いた映画が『竜二』である」というような錯覚に陥るのではないかという点が気がかりである。金子正次さんの志は、やくざになることなどではなく、立派な俳優として「男になる」ことである。「金子正次=竜二」の錯覚に陥ると、今井朝子ディレクターがこの番組に込めた本当のメッセージが伝わらない、あるいは、中途半端にしか伝わらないと思う。私はこの番組を見て、惹き込まれていく一方で、心の片隅で「何か違うぞ」「変だな」という違和感があったが、この違和感が何に因るものなのか、お終いに近づいてきたところで気がついた。決定的だと思ったのは、番組のラストシーンが、映画「竜二」の2カットで終わっていたということ。あのシーンで金子正次さんと「竜二」が完全に重なってしまった。あのラストシーンは、すごくインパクトが強く、おそらくプロの人が見ても、とてもお洒落な終わり方で、「あのラストシーンが良かった」という人も居ると思う。しかし、番組として「竜二」の生き方ではなくて、金子正次さんの生き様を伝えたいのであれば、あのまま終わらせるのではなく、もう一度、金子正次さんを知っている人のコメントを入れるとか、大杉漣さんや桜金造さんに金子正次像を語らせるなどして締めくくるなどの作り方のほうが良いと思われる。あれだけのメッセージを持ち、俳優としての金子正次さんについても語ることができる人がいるのだから、もう少し話してもらうというのも一つの作り方だと思う。確かに、映画「竜二」はいい映画だし、竜二の生き方も鋭い。けれど、金子正次さんの人生や夢は、それとは比較にならないほどスケールの大きいものだから、金子正次さんを「竜二」から解放してあげるべきだと思う。竜二がチンピラとして舞い戻ってしまうという結末が、金子正次さんの人物像に被さってしまうような、そういう誤解を招きかねないという懸念がある。

・「若者に対するメッセージ」といっても、それは別に特別なものである必要はなく、内容が良ければ伝わると思う。しかし、最後が絶望的な、救いようがないような結末、内容であった場合、いまの若者にはそれを克服して、より強い人間として再び立ち上がることができるような経験や、タフネス、意志の強さが見られない。できれば、爽快感を感じさせるような終わり方だと、20代の若者でも、その時、その場で、直ぐには分からなくても、しばらくしたら分かってくるような番組になるかも知れない。お先真っ暗、希望が持てないというときに、一歩前に踏み出すということを決意することこそ、「勇気」だと思うが、「竜二」という映画、その脚本を書いた金子正次さんの生涯、それを描いたこの番組は、そういう勇気を引き出す力があるし、一種の爽快感のようなものに繋がっていくかも知れない。

・ナレーションの声は新鮮で良かったが、大杉漣さんの声と声色が非常に似ているので、特にインタビュー形式の場面では、こんがらがってしまい、後からもう一度その部分を再生して注意深く聴いてみて、ようやく混同に気付いたという部分があった。

・ナレーターの語り方が不明瞭、不鮮明で何回聴いても分からない部分もあった。イントネーションに少々癖があっても言葉は分かるが、言葉そのものの発音については明瞭でないと分からない。特に映画、演劇とかドキュメンタリーのように言葉が非常に大切な作品においては、見ている人に非常にストレスを与えてしまい、メッセージがすっきりと伝わらなくなってしまう。取材対象に敬意を表明するという意味でも、言葉を大切にして欲しい。

・画面に映し出される映画「竜二」の音声と、ナレーションが重なるところでは、映画の音声の方も気になる。特に、映画「竜二」を見ていない人は、断片的に出てくる「竜二」の画面や音声を聞きたいと思う人も多いと思うので、ナレーションと画面の音声が被らないようにしたほうが視聴者に優しいと思う。

・「この窓からは何も見えない」という言葉は印象的で心に訴えるものがある。「この窓から海の景色は見える。けれどもやはり自分の希望とするものは東京に行かないと無いのだ」という言葉は、美しく、爽やかに響く。また、金子正次さんの最大の理解者が、母の金子タネヨさんで、金子正次さんがいつも「お母ちゃん」「お母ちゃん」といって話をしにきていた、というところは「この窓からは何も見えない」の部分とうまく関係していて、人物の表現方法として効果的だと思った。

・資料には「若者へのメッセージ」とあるが、この番組は全体として暗い感じがするし、どういうことをメッセージとして伝えたいのかということは、明快ではないように思われる。40代の人だと感じとして分かると思うが、20代の人だと分からないかもしれない。2週間拘束で7万円というギャラで出演してくれた桜金造さんや映画の制作に携わった人達の心意気、絆の強さ、友情などを全面に出すなど、もう少し視点を変えてみて、表現の方法を考えると、もっと分かりやすいし、番組に厚みが出てくると思う。

・この種の番組に多いパターンとして、妻や子供、その他の家族等が出てきたために、取り上げられている人物のイメージが拡散してしまうことがある。しかし、この番組はあくまでも「俳優・金子正次」という線を崩しておらず、とても良いことだと思う。

・番組を見ていると色々なことが思い出されたり、思考が広がったりした。あれこれ思い浮かぶということは、距離を置いて醒めた眼で見ている、見てしまっているということだと思う。メッセージが分かりにくいという指摘があったが、金子正次さんが過ごした時代は、まだ、時代の風潮の変化がそれほど激しくないので、いわんとするところは何となく分かる人は多いと思う。

・「竜二」の元監督の吉田豊さんの言葉の中に「一瞬の夏」という言葉があった。人それぞれではあろうが、私達の青春時代にも「一瞬の夏」があった。この言葉は吉田豊さんが金子正次さんと出会い、別れるまでの経緯をよく表した言葉だ。

・母の金子タネヨさんの一言一言が胸にこたえた。一番切々と感じられたのは、子を亡くした母の気持ちだった。

・最後の方で、「やくざものは不滅です」というようなフレーズが見られて、急に安っぽくなってきたのは何故かと思っていたが、「金子正次であり、金子竜二ではない」という鋭い指摘があり、少し納得した。番組全体としては、なかなかの力作だ。

・この番組の意図はよく分かるが、金子正次さんという人の姿が今一つはっきりとは分からなかった。金子正次さんを取り巻く周囲の人達が「気は優しい」「友情にあつい」「友達が多い」というような発言をしているのだが、そういうことを実際に裏付ける、感じさせるエピソードのようなものが、あまり出てこない。何らかの実例を示すと、もっと分かりやすかったのではないか。

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