放送番組審議会

2015年11月20日(金)

第206回放送番組審議会議事録

開催日時:平成27年9月25日(金)15時00分
課題番組:KAB・eat共同制作「高校野球100年 甲子園奇跡のバックホーム ~今 明かされる20年目の真実~」
                 2015年7月13日(土)19時00分~19時54分(54分)放送
                

・私はこのシーンをみた覚えがあるのですけれども、あのバックホームを含めて、試合の初めからの流れとかも、この番組で非常に詳しく紹介していたので、良く分かりました。あれは、本当はセーフだったとか、いろいろ後で聞きましたが、番組をみて、間違いなくアウトだということも良く分かりましたし、きちんと正確につくられた番組であるということで、敬意を表したいと思います。確かに奇跡と言われるように、あれをもう一回と言われてもなかなか出来ない、いろいろな条件が重なって、浜風の追い風とか、ちょうど星子さんが入ってくるところにピタッと球が来て、タッチアウトに出来たということが、よく分かったと思います。また、番組のつくり方で、ややもすると、こういう勝負事は勝った側にスポットが当たることが多いのですが、今回は、負けた側の方の事情、今の気持ち、その後のことも詳しく紹介されていて、良かったと思います。

 ・この番組をみて、一番の感想は、教科書のような番組だなと思ったことです。バックホームというひとつの事実を捉えて、そこにバックホームをした側とタッチアップをした側の選手、それぞれの監督のストーリーや、審判が「それが最高の僕の審判だった。」と話していたエピソードがあったこと。つまり、ひとつの事実に対して、五つのストーリーがあったことを見事に描いてみせたところが、国語の教科書に載っているような"事実はひとつだけれども、立場によって、ストーリーは全く変わってくるんだ。"ということを描いているようで、興味深くみました。その選手が19年前の出来事を現在までどのように心の中で抱え、どういうふうに影響をしているのかを時間軸の方で追いかけたところを、最後のまとめにしていたことを非常におもしろいと思いました。台本を構成された方はよく考えていたと思います。

 ・1996年全国高校野球選手権大会決勝での"奇跡のバックホーム"は、あまりにも有名で、バックホームの瞬間の映像は何度も繰り返してみる経験はありましたけれど、その前、延長10回裏に至る試合展開、ドラマについては、私は深く知らなかったので、最後まで飽きることなく興味を持って拝見しました。実況放送を挟みながら、松山商のバッテリー、澤田監督、熊本工業主将、一塁塁審、テレビカメラマンと幅広い人からの証言を集めて、番組が多角的で厚みを持ったものになっていたと思います。特に、4万8千人の観客の中に智弁和歌山の髙嶋監督がいたというエピソードも面白く、試合に対する解説も披露されて、味わい深いものがありました。これだけの人から取材をするのは、相当の手間暇がかかった、苦労した力作ではないかと私は感じました。飛球と浜風のエピソードも、バックホームの背景を知る上で興味深いデータで、いろいろなデータが重なっていたと分かりました。その一方で、矢野、星子両選手の甲子園での再会、熊本のスポーツバーでの交流には清々しさを感じました。単なる試合を振り返るという番組ではなくて、ふたりがこのプレーをお互いに一生、背負っていこうと誓い合い、前向きに生きていくという人間ドキュメンタリーのようなものに仕立てられていたと思います。ふたりとも、あの一球で何か重いものを背負って、ずっと生きてきたというエピソードが綴られていて、一生お互いに背負って生きて行こうと誓い合ったのは象徴的な言葉だったと思っています。少し気になったのは、松山商業は11回表に3得点勝ち越して勝利を挙げていますが、何か演出上の配慮があったのか、そのことについてほとんど触れられていなかったことです。

 ・午後7時からの時間帯に、こういったドキュメンタリー番組が放送されたことに驚きました。最初は私もそうですが、野球に興味が無い人がこの番組をみると、番組タイトルが出て来るまでに、チャンネルを変えてしまうのではないかということも少し考えましたが、みていくうちに、矢野さんと星子さんのドラマに引き込まれ、たいへん感動しました。たくさんの方に取材をして制作した番組なので、とても心に残る言葉が多く、一球一球、本当に勝負しているのだなという感動が伝わってきました。番組に流れる音楽もとてもきれいでした。題名はわからないのですけど、その場面、場面に合った曲が流れていると思いながらみておりました。番組にとって音楽はとても大事だということを再確認いたしました。毎年、夏休みの終わりに子供の読書感想文にとても苦労をするのですが、この番組は本にして子供たちに読んでもらい、こういう感動をさらに深めていただきたいような内容であったのではないかと感じました。

 ・ひと言で言えば、見ごたえのある良い番組だったという感想です。全体の構成の良さもあるのか、1時間が非常に短く感じました。最後のエンディングの映像も味がありました。ナビゲーターに小泉孝太郎を起用したことは同年代で元高校球児というところと、彼の爽やかさというのが非常にマッチした気がします。このバックホームには私も非常に記憶がありますが、矢野さん、星子さん、ふたりにとっても何かあるごとに話題にされるプレーで、番組の最後の方で言っていましたが、「お互いにあの試合の、あのプレーとは一生付き合っていかなければいけない。」という個人的な感情も出てきました。愛媛の高校野球100年歴史の中には、題材に事欠かない、本当に感動的なシーンがとても多くありますが、今回、『奇跡のバックホーム』を題材として取り上げたのは、丁度20年という時代の流れが我々に感動を呼び戻す非常にいい時間の区切りでもあり、とても良かったと思います。ふたり以外に、監督に焦点を当てたところもおもしろく感じました。澤田監督が「何が起こるか分からない。」と感じ、矢野選手を起用した勘の鋭さ。また、熊本工業の監督が星子選手を4番バッターから8番バッターにしたこと。そして、選手たちをその試合をみせるため連れてきていた智弁和歌山の髙嶋監督が次の年には優勝したこと。選手のそれぞれの技量も大切なのですが、この番組をみて、監督の存在は非常に大きいということを側面からみせてもらったような気がします。私も何回もこのプレーを横からの映像でみてアウトだろうと思ってはいたのですが、屋根からの映像で完全にアウトだと、顔からミットに突っ込んでいったような感じがしまして、主審も"ベストジャッジ"と判断していたと分かりました。「あの瞬間、何が起こったのか分からなかった。」と、そういうコメントをとてもたくさんの方からもらっていたわけですが、いろいろな人物、当時の審判員、当時のカメラマン、智弁和歌山の監督、などたくさんの人物に取材をして、登場させたというのは、番組構成上、とても良かったと感心しました

・野球がまったく分からないのですけれど、この番組は本当に素晴らしいと思いました。野球をしていた方を番組で取り上げるというと、"挫折"とか、少しいい意味ではなく"その選手は今、どうしている"というようなことが多いのですが、この番組のふたりは、今は野球以外の方の道に進まれていらっしゃいますけれども、それぞれにいい人生を歩まれているということが、よく伝わってきました。何故、野球をするのか、その部活にチカラをいれるのかという指針を高校生、中学生に示していましたし、子育てにおいても、「野球をするということは、野球だけを学ぶのではなく、こういう生き方もある。」ということを親としてお母さん、お父さんが、そして近所の人もこどもに伝えてあげることも出来ます。どの角度からみてもとてもいい番組だと思いました。

 ・eatだから制作できた、eatでしか制作できない、eatの底力と番組づくりへの情熱、そして放送局としてのアイデンティティを顕在化させた素晴らしい番組でした。本番組は、まず7月13日オンタイムで拝見しました。そのとき3ヶ所感動ポイントがありました。そして録画を見ながら、やはり今回も同じところで感動しました。それだけ、心に響くものがあるということです。感動ポイントのベスト1は「まだゲームは終わりません」の実況、2番目は矢野さんと星子さんのキャッチボール、3番目は星子さんのお店に矢野さんのユニフォームが飾ってあったこと。過度な演出も無く、貴重な映像が19年前の臨場感あふれる場面を紡いでいく。2チームそれぞれから見たタッチアップの瞬間、審判から見たあの瞬間、智弁和歌山の高嶋監督、カメラマンから見たあの瞬間、観客のどよめき、矢野さんのジャンプなど丁寧に、平等な視点で、試合を捉え、視聴者に伝える。この姿勢がこの番組のクオリティの高さだと思いました。ナレーションの篠原さんもよかったです。小泉孝太郎さんも飾らない、性格の良さが感じられるコメントに好感が湧きました。同じ36歳なのであれば矢野さん、星子さん、小泉さんの3人が会してトークする場面があったらよかったなと思いました。

 ・通常は50分ぐらい番組だと、ずいぶん長いのですけれども、私も番組をみて、あまり飽きずにじっくりと中に入っていけました。人生のなかで高校時代はスポーツをする、体を動かしてゲームをやるには人間としては一番のっている頃だと思いますが、その頃に全力を賭けて高校野球をした選手、球児が、その後、どうなったのか、(試合では)それまでもどういう経過を経て、そういうポジションになり、また、そこに監督の采配が入って、ゲームがこうなったと、登場人物がそれぞれよく分かるように制作していたので、番組の趣旨が非常に伝わりやすかったと思います。是非、またみたいという人も多いのではないかと思います。