放送番組審議会

2007年03月26日(月)

第121回 放送番組審議会議事録

開催日時:平成19年3月26日(月) 午後3時
課題番組:「真矢みきの坂本龍馬ミステリー 人間・龍馬の知られざるスゴイを求めて」


1. 開催日時:平成19年3月26日(月) 午後3時
2. 課題番組:「真矢みきの坂本龍馬ミステリー 人間・龍馬の知られざるスゴイを求めて」
          制作:HOME、YAB、eat、KSB  3月5日(月)19時00分~19時54分(54分)放送
3. 記事の概要:
・「龍馬初心者向けあるいは歴史上名前は知っているが実は何がどうだったかの記憶があまり定かではない層」に優しい番組作りになっていたと思う。きっとそれがねらいであったと推察するので、すっきりとした番組になっていて、リラックスしてみることのできる番組になり、よかったと思う。(当然龍馬の事に関心があり、ファンであり、歴史に詳しい方にとっては物足りないだろうなと思う)
レポーターの真矢みきさんは、番組最初のオープニングコメントがやや鼻にかかりすぎていて、大丈夫かなと一瞬思ったが、本編に入ると、彼女の誠実さやことばを大切に話す落ち着いたトーン、役者としての感性が随所に出てきて、魅力的だった。全体として見ていて安心感と共感の湧くレポートぶりだった。特に愛媛の何もない寂しい脱藩の道と風景を前にして、真矢さんが龍馬の感情描写をつぶやく場面では、舞台で龍馬を主演した経験や真矢みきさん自身の感性が、活かされていて素敵だった。
展開の中で、龍馬がヒルズ族という広島ホームの切り口には頭をかしげてしまった。個人的見解だが、現代のヒルズ族と龍馬をかぶせることは、ナンセンスだと思う。
語り(各エピソードナレーション)の室緒肇さんが番組の中で、良い声で語られ、美しい日本語の響きが、歴史物にぴったりであった。また随所に出てくる解説の一坂太郎さんの解説も簡潔で、わかりやすく適任者だったと思う。真矢さん、室緒さん、一坂さんのキャスティングに拍手を贈りたい。
スタジオの4人のアナウンサーとゲスト2人と1組(どちらか一人でも良かった)の構成については、ミステリーを追う中の息抜き効果を狙ったものだと思われ、あまり長引かせず、短く扱っており、その点は適切だったと思う。役割がむずかしいなあと思われたのが、女子アナだった。出題者というのが主だった役割なので、その点から見るとこの番組の中では一人で充分で、各局の女子アナが交代で担当する必要もないかなあという感じがした。各局合同ということの主張のために4人出演したのだと推察するが、ならばもう少し出し方や役割の工夫があれば良いのではないか。
・私は、歴史に通じているわけではなく、坂本龍馬のこともあまりよく知らない。そういう者の感想として申しあげたい。番組は、真矢みきさんのレポートと萩市の学芸員の方の解説を主とするビデオの部分とスタジオの部分から構成されているが、正直に申し上げるとスタジオ部分になるとげっそりした。ビデオの部分は、歴史に疎い者にも分かりやすく、落ち着いて話が聴けるが、スタジオに降りたとたんに品がなくなる。ペナルティを起用したのも、親しみやすくということかも知れないが、歴史を扱う番組としては、ちょっと品がなさ過ぎであり、相応しくないと思う。このために、いろいろ新たな知見もあるのに、そういうところが浮かび上がって来ない、感じにくい、そういう作りになってしまっている。各局の女性アナウンサーを出さないといけないという制約があったのだと思うが、はっきり申し上げると、スタジオ部分は無いほうが良かったと思う。ビデオの部分で吸収された折角の知識がスタジオ部分でぶち壊された感じがする。新事実も盛り込まれており内容的には悪くなかったのだと思うが、もったいないことをしたと思う。
・どのような番組を、どのようなタイミングで作るかという観点では、坂本龍馬没後140年ということで理解できる。また、4局共同制作というのも、これからのローカル番組制作のあり方の一つとして評価できる。真矢みきさんの起用については理解に苦しむところだったが、彼女が舞台で坂本龍馬を演じたことがあるということで納得でき、全体として苦痛を感じず見ることが出来た。一つ注文をつけるとすれば、真矢みきさんは、龍馬の何処が好きなのか、そういう話があると、彼女の存在にもう一つ厚みができたし、番組としても面白くなったのではないかと思う。また、クイズ形式で謎に迫るという手法は悪くないと思うが、通説、定説のあることについて、独自の見解を示すときには、それと明瞭に分かるよう、違いを強調するべきだと思う。また、締めのところに出てくる現代の日本人に対するメッセージについては、言葉がやや紋切り型になり、しかも立派過ぎる表現になってしまい、上滑りしている気がする。むしろ、真矢みきさんの等身大の言葉で表現されたメッセージであった方が、説得力を持ち得たのではないかと思う。
・ああ「真矢みき」さんはスターなのだと痛感したのは、あの山の険しい道を、あの靴、あの服で歩かせている。あれはスターでなければ様にならない。また、宝塚で活躍されていただけあって、発声がしっかりしている。これが武器になったと思う。また、私は高知県で4年ほど暮らしたことがあるが、学芸員の解説の中には私の知らないこともあり、驚いた。およそ歴史物は、新たな史料があるか、そうでなければ如何に深く掘り下げられるかがポイントとなるが、新たな史料に基づいているというところで合格点をもらえる。また、切り口は新しくないが、拵えは新しい。歴史物らしくないという意見もあると思うが、庶民のレベルというのは実はあの程度なのかも知れない。馬鹿馬鹿しい遣り取りもあったが、視聴者に馴染みやすいとも言える。女性アナウンサーの使い方については、4局共同制作ということもあり、ああいう形で一人一人に花を持たせる形になったのは仕方ないと思う。全体として楽しく面白かったと思う。ペナルティの二人は確かに品が無かったし、もともと歴史物の好きな人からは反発を受けるかもしれないが、あのスタジオ部分が無かったならば、ただのありきたりの歴史物になっていたと思う。見てもらう工夫の一つだと思う。
・牛山委員のレポートの中で、龍馬をヒルズ族にたとえるのはナンセンスという指摘があったが、私はむしろ言い得て妙だと思った。時代の風雲児であり、既成秩序の殻を破り、大金をせしめるというところでは共通するところがあり、若者に親しみを持たせる巧い譬えだと思う。ただ、今のヒルズ族と違うのは、何よりも友情を大切にしたというところで、金が第一というヒルズ族とは違う。救われた気持ちになった。ただ、いまひとつ説明が足りないのは、いろは丸のエピソードで、まるで龍馬が船主になっていたかのような誤解をする人が居るかも知れない。いろは丸のオーナーは大洲藩で、龍馬はそれを借り受けていた。しかるに龍馬は紀州和歌山藩からせしめた七万両の賠償金を、大洲藩には分配しておらず、そのことから大洲の人は龍馬を良く思っていないというようなことがある。これは龍馬のマイナスイメージの部分だが、そういう部分も出した方がむしろ面白かったのではないかと思う。番組全体としては、若者向きの番組ではないかと思う。
・各局の女性アナウンサーを公平に出さなければならないのなら、全体の進行を誰か別のタレントが受け持ち、女性アナウンサーはコメンテイターのように位置づけるのも一方法だったと思う。既に指摘があったが、ビデオの部分とスタジオの部分の落差が激しすぎて、スタジオが軽薄になりすぎている。また、墓参りのシーンの撮り方など、細かな配慮に欠けるところもあった。クイズ形式というのは悪くないと思うが、スタジオで余りにも茶化しすぎている。何かバラエティ番組にしなければいけないという意思のようなものを感じる。そこまでしてバラエティ番組にしなければならないものなのか。解説などは分かりやすく、坂本龍馬のことを分かりやすく紹介しようという気持ちは伝わってくる。しかし、ヒルズ族とかニートとか、そういう言葉と無理に結びつける必要はないと思う。ラストの龍馬の詩のところは、詩も素晴らしいし、景色も素晴らしいし、音楽も非常に素晴らしい。むしろ、真矢みきさんは陰アナに徹して、顔出ししないほうがメッセージがよく伝わったのではないかと思う。
・こういう歴史物番組の審議というのは難しいところがあるが、全体的に良い評価を受けているようだ。番組そのものは入りやすいと思う。ただ、評価が分かれたものの、パネラーはいささか砕けすぎの感があり、バラエティ色が強すぎると思う。もう少し考えた人選をして欲しいものだ。「人間・龍馬の知られざるスゴイを求めて」というベタなサブタイトルは、如何にもローカル局らしいなと感じる。ただ、このスケールで番組を作るのであれば、1Hに4局を詰め込むというのは元々無理があり、かなり早足の番組進行となっている。それぞれの局がメッセージを持って表現していくためには、 1局あたり少なくとも30分は必要ではないかと思った。